「なまけものが見たセカイ」

yamada

 

 

 

 

芝で整えられた人口の丘を

 

大きな体を横たえて

クマの親子がじゃれあっている

 

 

 

子供のころにながれていた

無垢な時間と重なって

 

 

なつかしいな

こういう光景、、、とひとりつぶやく

 

 

 

 

 

 

 

一人で訪れた

動物園

 

 

仲間と来たときとは違った発見や、

時間の経過を

改めてじっくりと味わっている

 

 

 

 

 

わたしたちには

けだる気だったり、のんびりと過ごしているようにみえるけれど

 

檻の中の彼等にとって

それはいつも通りの日常で・・・

 

 

その日常の中、彼らに無言の手招きをされながら

 

檻から檻へ

 

 

 

ひとりだけれど、ひとりじゃないと

言ってもらえているような

歓迎されているような

分け隔てのなさがこころに染みた

 

 

 

 

 

回遊の途中

ある檻の前で足が止まった

 

 

人をからかうかのように

真似っこできそうにない姿勢の『なまけもの』と目が合ったのだ

 

 

 

あいくるしい眼差しからは

表情をよめないわたし

 

反応欲しさに

フードを被り、ペロリと舌を出す

 

 

しばらくの沈黙の後

 

自愛に満ちたひとみに

わたしはどう映っているのだろうと

 

ふと冷静さを取り戻した

 

 

 

 

 

 

 

ほんのちょっとの恥ずかしさから

フードを目深にかぶりなおし

 

 

今度は周りの視線から逃れるように

なまけものの前から離れることにした

 

 

 

フードはしばらくかぶったままにしておこう

 

見渡せるほどだった園内の視界がせばまり

 

まるで潜水艦の丸窓から外を覗いているようだった

 

 

 

檻の中から見る景色には

制限があることに気が付いた

 

 

あのなまけものの目に映る景色は

いつも四角く切り取られ、前に立つ人が毎日変わるだけだ

 

 

彼らにとってそれは日常であり

わたしが立った一瞬の光景も

彼の目には少し変化した景色の一部に過ぎないのだ

 

 

 

それを想像したとき

なまけものの目に映る景色の一部になれたことで

ここに来た意味ができた気がした

 

 

 

そろそろ帰ろう

 

 

そう思うと

わたしは握っていたフードの紐から手を放し

フードを脱いだ

 

 

 

そこには来た時と同じ

見渡せるほど広い園の景色が

目の前に広がっていた

 

 

 

 

 

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